【第9回目その2】「空気を作る」というテクニック

この記事は2020年4月10日に書かれたもので、内容が古い可能性がありますのでご注意ください。

INDEX
  1. ▼選ぶテクニックとして見た「音響」
  2. ▼音楽は役者が選ぶもの
    1. BGM無しでも雰囲気を作ろう
  3. ▼「場の空気」の実例
  4. ▼「見せ方」としてのパントマイム例

▼選ぶテクニックとして見た「音響」

前回の続きです。

基礎レッスン中は、M(エム=音楽)がかかった状態でお芝居をする機会はなかなかないと思います。

なので馴染みが薄いと思いますが、「音響」と「演技」は密接な関係にあります

例えば、悲しい曲が流れているときに発するセリフと、アッパー(テンションアゲアゲ)な曲が流れているときに発するセリフでは、空気が異なります。

台本:星に願いをの「遅くなっちゃったね」の台詞ひとつを言うとしても、まったく空気が異なります。

台本:星に願いを

1:あ〜、遅くなっちゃったね。

さらに役の「遅くなっちゃったね」の言い方にも変化が生じます。

悲しい曲では低めの声で「遅くなっちゃったね」が言いやすくなり、アッパーな曲ではテンション高めに「遅くなっちゃったね」と言いやすくなります。

音楽があることで役者の演技が変わるということです。この音楽をどう選ぶか、です。

▼音楽は役者が選ぶもの

音楽を選ぶ作業は、「音響監督の腕の見せどころ」と思うでしょうか?

いいえ、半分正解で半分間違いです。

お芝居を作るにあたっては、役者は「音楽を与えられる」のではなく、「役者が音楽を選ぶ」ものだからです。

役者同士が仮で演じてみて、ここに合う音楽を音響スタッフに注文します。

役者が演じてみてから、

「こんな音楽がいいな」と音響に注文する

また、BGMには「環境音」も含まれます。

例えば、台本:ゴローを待ちながらでは、「放課後の学校」っぽさが出たらいい雰囲気になりそうじゃないですか?「遠くから聞こえる運動部の掛け声」などが合うと思います。

BGM無しでも雰囲気を作ろう

そしてこれが難しいのですが、この音楽が掛かっていなくても「まるで掛かっているような雰囲気で演じる」ことがとても大切です。

「役のいる場所は屋上で、フェンスがあって、フェンス越しに運動部の声が聞こえて・・・」と、頭では分かっていると思います。でも、「その空気を作って演じ始められているか」、これが難しいです。

実際にBGMが掛かっていれば役者も空気に引っ張られやすいので、そんなに問題はありません。しかし実際はBGMのない稽古も多いですし、アフレコではBGMが入らない場合も多いです。

そのようなBGMが無い状況でも「狙いどおりの空気が感じ取れる」レベルまで持っていくことは重要です。極端な話ですが、たとえば音響スタッフと意見が対立したときに、スタッフから「あなた達の稽古を見てたけど、そういう雰囲気は出てなかったぞ」と、役の想定したBGMを提供しないこともあり得ます。

(舞台俳優・声優である大塚明夫さんの著書「声優塾」でも、似たようなBGMの話が出ています)

もしくは、素人のYoutubeなどを見ると分かりやすいかもしれません。明るいBGMで始まっているのに、ぼそぼそと暗い雰囲気で喋りだされると、とてつもない違和感、素人感に苛まれます。

さて、「見せ方=テクニック」のお話として最初に音響を取り上げたことには、理由があります。

音響が作り出す場の空気は、テクニックのもっとも根幹に直結する部分だからです。

▼「場の空気」の実例

繰り返しになりますが、BGMの一切ないレッスン中であっても、場の空気は大事にしてあげる必要があります。言い換えると、音響に頼らず空気を作り出すことです。

「冷めた空気」の実例は、次のコントです※比較として分かりやすいだけであって、コントを批評してる訳ではありません

例:

https://www.youtube.com/watch?v=cu-Znsx8Ufs

背景も真っ白で、ただコントが始まっていますよね。これ、なんとなく場の空気が冷え込んでいるのが分かるでしょうか。

もしもここに、「手前には観客がいる」「観客の力が抜けて笑いたそうに待ってる」などの温かい空気が入れば、笑いやすい雰囲気も作りやすいです。しかし実際は、目の前に観客がいるかどうかは分かりませんよね。

役者のテクニックとして、たとえ観客がいなくとも、背景が真っ白のこの状態でも、場がピリっとしていても、「笑ってよい、笑える空気にする」ことが必要です

ほかにも例えば、「ふだんは温厚な人が、鋭い一言でやめなよと言ったとき、空気がピリっと凍り付く」のも同じです。これは温厚な人が激怒したから空気が凍りついたのではなくて、場の空気がギュッと縮まったからです。

▼「見せ方」としてのパントマイム例

続いて、こんなパントマイムをしてみましょう。

水を飲むパントマイム

蛇口をひねる

水が出る

コップに水を注ぐ

蛇口を締める

水を飲む

「ごくっ。ふぅ」

これもパントマイムとしてまったく間違いではないです。

でも、「どう見せるか?」をよく考えたとき、ここにアクセントが加わります。

例えば、「ごくっごくっ…………はぁっ」というアクセントを加えるだけでも空気が変わります。

空気が変わる

「水が飲みたい…!」とギューッと縮んでいた空気が

「水が飲めた!」とパァーッと空気が弛緩する

以上のように空気、雰囲気を支配することは重要です。これが出来ていないと、「ただ演じているだけ」の状態になり下がります。

「台詞を棒読みではいけない」のと同じように、「その場にある空気をそのまま利用する」ことは無策です。たとえそこが誰も表情を動かさないオーディション会場であっても、自分の狙った空気に持っていくことがテクニックです。

なかなか理解の難しい話だと思います。

がんばりましょう!