前回、「台本とは人間関係を見てあげることが最重要」とお伝えしました。
でも、人間関係だけを見ていてもまだまだ演技で悩む部分は出てきますし、お芝居も完成しづらいです。
そこで2番目に見てあげる部分が「その役って、どんな人?」という部分です。
その役って、どんな人?
「どんな人か?」を決定づける要素はたくさんあります。
例えば「口調」です。
小説などを読むと、たとえ誰の台詞なのか名前が書いてなくても「この役が言っているんだろうな」とひと目で分かる口調がありますよね。その役特有の仕草や癖、動きだってそうです。
附帳(つけちょう)とは
文学座大掃除終了。1976年の「電信お玉」の杉村春子直筆の附帳が容赦なく廃棄されそうになっていたので、いい事ありそうだし一枚もらった。 pic.twitter.com/D1YjjIuvc4
— 高橋正徳 (@noritakahashi) December 28, 2015
附帳(つけちょう)という紙があります。
役の特徴や設定を書き込むための、いわば「キャラクター表」です。
役の見た目を描いた絵姿や、シーンごとにその役が必要な小道具など記されています。これを作るのはもともと舞台監督の仕事です。歌舞伎の世界などではいまも使われていますが、舞台ではそこまで使われなくなりました。
台本が出来上がってから附帳が作られる、といった順序です。
今回は、この附帳をいちいち書き出さなくてもいいので、頭の中でふわっと「その役の附帳」を想像してあげてほしいです。
- どんな姿?どんな服装?どんな体格?
- 口癖は?喋り出しの特徴は?
- 性質、性格、人間関係は?
ただし、台本だけで附帳が作れるかというと、難しいです。
なぜならその場に台本の制作者でもいない限り「役の正解」が分かることは稀で、あとは想像で補完するしかないからです。
例えば、シェイクスピアの作品で附帳を作る、といっても完璧なものは作れません。シェイクスピア自身は大昔に亡くなっているからです。だからこそ役・舞台ごとに適した附帳を想像で補いながら作成します。
附帳は他人にも見てもらう
これまでたくさんお話した「目的」は、自分の中で「これだ」という自信を持って成立するものを持っていればOK、というものでした。誰かに「私の目的はこうしようと思うんだけど」と相談しなくても、目的の設定が可能だということです。
しかし附帳はそうはいきません。附帳とは自分の中だけで完結するものではなく、同じ舞台に立つ役者や関係者と調整が必要なものだということです。
例を挙げます。
「名探偵コナンっぽいお芝居をしよう」として、あなたが主人公コナン役になったとします。
コナンくんの附帳を作るとしたとき、自分が思い描くコナンくんは「くりくり頭のちびインテリキャラ」でした。
しかし他の人が想像するコナンくんは「髪がモヒカンの、バリバリの不良高校生」だと思い込んでいます。
するとどうなるでしょう。稽古で芝居を合わせたときに、演技がまったく噛み合わなくなりますよね。
稽古ならまだしも、本番でこれが起きたら悲惨です。「本番まで誰も違和感に気づかない」なんてことがあるのでしょうか?
実はあります。何度も稽古をすると役者の感覚が麻痺してきて、そのまま公演まで行くことがありえます。結果は観客がドン引きするだけです。
以上のとおり、お芝居をする中で、双方の演技がズレることは多々あります。
これを極力回避するためには、私たちはどうしたらいいのでしょうか?
一つの答えが「ダブルスタンダードを持つこと」です。
続きます!
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