台本を読んでいて、不思議なことってありませんか?
例えば、台本:星に願いをでは、それぞれが自らの目的をもって台詞を言います。
なのに、「3人」と指定しているところは演技を合わせなきゃいけないんですよ。
3人 お星様、お願いします!!!
こういうのを「お芝居の嘘」とは言いますが、そもそもなぜ合うのでしょう?なぜ合わせなきゃいけないのでしょうか?脚本家側の都合が入っていると思いませんか?
ここで学ぶのが「演出」という概念です。
▼演出とは何か
演出とはなんでしょう。
演出とはバランサーです。目的としては、常に全体を見ようとします。1つの役だけを集中して見ることはありません。全体のバランスを見る役目を持っています。
この演出家が演出プランといって、お芝居の方向性を決めます。「ここはきっかけ合わせをしよう」と決まったりします。
きっかけ合わせが出た過去記事:【第5回その5】【重要】きっかけとは何か
なお、業界全体で起きやすい勘違いが「演出家の言うことがすべて」という誤解です。そういった現場もありますが、本来は異なります。
演出家の立ち位置を次で見てみましょう。
▼すべては台本を活かすために存在する
お芝居をピラミッドで見てみましょう。といっても、二段しかありません。
【台本】
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【スタッフ・裏方・技術・制作・演出家・出演者】
どんな時でも、ヒエラルキーの頂点に立つのが台本です。「台本を基準にみんなでお芝居を組み立てましょう」が出発点だからです。
そして、制作班(プロデューサー)というのも役者と横並びの存在です。現場入りすると、プロデューサー>>>役者という力関係がありそうな気がしますが、本来は対等です。
もちろん先輩・後輩はあります。しかしヒエラルキーの上下はありません。上下関係がいきすぎると逆に太鼓持ちになってしまいます。
▼よくない役者と演出家の関係
「役者と演出家は対等」と認識していないと、おかしなことが起きます。
それは「役者が演出家に教えを請うようになる」ことです。
「やってみました。この演技でいいですか?(演出さん、あなたが判断して貰えます?)」と演出家に聞く役者がいますが、それは下策です。
本来は「やってみました。おかしなところがあれば言って下さい(さあ演出さん、どういう風に私を活かしてくれるの?)」が望ましい姿です。
これを「無人島のサバイバル」で例えると、次のとおりです。
役者たちが食材を採って、演出家が調理を担当することになりました。
役者たちは山菜などをとり、続々と演出家のもとに食材を運んできました。
役者A:これ持ってきましたけど……食べられると思います?分からないですけど……
と演出家に聞く役者がいました。これがNG例です。
役者A:これは食べられる物です!調理お願いします!
と自信を持って言い切れる役者が、よい例です。
つまり、役者たちは「使える演技」を演出家のもとに並べるのであって、「使えるかどうか分からない演技」を持ってきて演出家の判断に委ねるのではない、ということです。
なお脚本家と演出家の関係性は「漫画家」と「原作者」の関係と似ています。すべてはチームプレーです。物語を最大限に面白くするためにすり合わせします。
▼「物語を面白くする」具体的な行動とは?
演出は、バランスを取る仕事だと言いました。
バランスを取るとは、具体的にはどういうことを指しているのでしょう?
- 物語を成立させること?
- 物語の破綻を防ぐこと?
- 物語を面白くすること?
どれも正解です!
じゃあ例えば、「物語を最大限に面白くする」とは、誰から見て最大限でしょうか?どのくらいやれば最大限面白いと言えるのでしょうか?難しい問題ですよね。
それは次のような条件によって、まったく異なってきます。
- どんな出演者がいる?
- どんな環境で演じる?
- 上演まであと何ヶ月?
- どんな美術やセットが用意できる? など
演出家の仕事「限定」と「ダメ出し」
上記の条件に応じて、柔軟に「物語を成立させるために・より面白くするために」演出家がおこなう具体的な行動があります。それは次のとおりです。
- 限定(制限)
- ダメ出し
1.限定(制限)
制限とは、「あなたの役は、この幅からこの幅で演じてくれ」という指示です。スコープを絞ることです。
制限とは「決めること」ではありません。あくまで幅を狭めることです。
なぜ制限が必要なのでしょうか?それは制限しないと、役ができる行動は無限にあるからです。
台本は文字情報ですから、行間を読み解くほど、いろいろなことが出来ます。
べつに大事な話をしているときに鼻をほじってたっていいんです。
でも中には「その行動はとっちゃダメでしょ」ということはありますよね。だからこそ演技の幅を「この範囲からこの範囲でお願い」と、ある程度制限してあげる必要があるのです。
台本:星に願いをにある「3人、声を合わせて→モテたい!モテたい!モテたい」というセリフも制限の一種です。
2.ダメ出し
そして制限をしてからでないと出来ないことがあります。それが「ダメ出し」です。
制限をあらかじめ設定しておかないと、極めてレベルの低いダメしか出せません。
なぜなら、制限のない中、自由な発想で演技を行うと、そこに対するダメ出しは「後出しじゃんけん」でしかないからです。
仮に「3人、声を合わせて」という制限が無い状態で役者みんなが思い思いに演じてから、「ストップ。そこは一緒に声を合わせてほしかったなぁ〜」などとダメ出しされると、「それを先に言えよ!」となりますもんね。
以上、今回は演出・演出家の話でした。
引き続きがんばりましょう!