▼「目的」がないと「演じる」ことができない。なぜか?
そもそも目的がないと演じることが出来ません。
なぜだと思いますか?
例えば、こんな台本があったとしましょう。
役A:おはよう
役B:おはよう
「目的」が設定されないまま2人が出会ったとき、どのように「おはよう」と言ってよいか分かりませんね。元気よく?それとも眠たげに?
では、ここで役Aの目的をむりやり「相手をビビらせたい」に設定してみましょう。
すると、やることがだいぶ決まってきます。役Aは高圧的な「おはよう」を口にするかもしれませんよね。
もしくは役Bの目的を「相手に早くこの場を去らせたい」に設定したとすると、役Bがそっけない「……おはよ」になるかもしれません。
以上のように、目的があってはじめて「おはよう」の言い方や、それを言われた相手の反応が決まります。
重要なことですが、目的に「たった1つの正解」なんてないし、正解か不正解かなんてやってみないとわかりません。それぞれの役・脚本家・演出家の数だけ正解があります。
何よりもまずは目的を「こうかな?」と仮でもいいので設定することです!その上で演じてみて、目的の修正をしていけばいいのです。
※自分の考えた「役」と演出家の考える「役」が大きくずれていたら、演出家などからツッコミが入ることもあるでしょう。そういうのも込みで「台本合わせ」です。
▼目的を設定するメリット
こんなに苦労して「目的」を設定するのは、なぜでしょう?
それは目的を設定することで絶大なメリットが受けられるからです。
目的が設定していなかったり、あまりに状況に合致しない適当な目的になっていると、お芝居は途端に破綻して、お客さんから見て「いったい何をやっているのか分からない・・・」という悪い感想を抱かれるおそれがあります。
逆に目的さえハッキリ決まっていれば、「目的を達成するための行動」に集中できるので、すべての芝居が楽にできるようになります。
だって、そのとき役が考えるべきは「いかにして目的を達成するか!?」だけですからね!
台本の進行で「なんかおかしいぞ?お芝居が噛み合わない」と立ち行かなくなったときにも目的の設定は役立ちます。
目的が無いと「どこからどこまで直せばいいのか」わけが解らなくなります。しかし目的があれば「あ、ここでおかしくなったのか。じゃあここまで台本を戻してやり直そう」と、明確に修正点が見えるようになります。難しい話なのでこれは参考程度にお願いします。
▼目的と行動はイコールではない
「目的」と「目的達成のための行動」はイコールではありません。
どういうことか、また愛の告白で例えます。
「相手にOKと言わせたい」という目的があったとき、目的を達成するため、役はどんな行動を取るでしょうか?
私の目的:相手にOKと言わせるために、
私の行動:「ずっと好きでした」と発言した
これもひとつの正解ですが、なにも「好きでした」というセリフしか正解がないわけではないことに注目してください。
例えば「相手を校庭に呼び出す」「泣き落としを使う」「殴って屈服させる」「金をちらつかせる」なども立派な目的達成の手段のひとつだということです。
私の目的:相手にOKと言わせるために、
私の行動候補1:校庭に呼び出した
私の行動候補2:泣き落としを使った
私の行動候補3:金をちらつかせた など
現実的に考えていかに非常識な行動だったとしても、手段を考えるのは「役者」ではなく、あくまで「役」です。この感覚を持っていてほしいです。
▼目的があるから「言動」が出る
目的があるからこそ、言葉や行動(あわせて言動といいます)にあらわれます。
単純ですが、絶対に逆ではないことに注意してください。
正:「相手を恋人にさせたい」という目的がある→「僕と付き合ってください」と言動が出る
誤:「僕と付き合ってください」と言動が出る→「相手を恋人にさせたい」という目的が決まる
そりゃそうです。告白してから後付けの理由を探すなんて真似はしません。
もうひとつ例を挙げます。
正:「母親をバカにしたことを後悔させたい」という目的がある→相手を殴る
誤:相手を殴る→「母親をバカにしたことを後悔させたい」という目的が決まる
このとおり相手に何かさせたいからこそ、言葉が出るし、行動に出ます。
そんなばかなと思うかもしれませんが、目的を設定していると、つい逆転しがちなんです。注意しましょう。
目的のルールあれこれ
目的には他にもルールがあります。
なぜルールがあるかと言うと、ルールに従うとお芝居がとてもシンプルに演じることができるようになるからです。シンプルに演じられるということは、どこにパワーや練習時間を割けばいいのか明確になるということです。
どれも重要なルールなので、順に見ていきましょう。
1.「目的の結果」は3つに分けられる
すべての役は、自分の目的を達成しようと行動します
目的を失敗しようと思って動く役はいません。
目的を達成しようとした結果、起きることは、次の3つのいずれかです。
- 成功する(達成する)
- 失敗する
- 邪魔される
「成功(達成)・失敗・邪魔」のどれかがかならず発生します。
2.成功・失敗・邪魔が起きると目的は変更される
成功(達成)、失敗、邪魔のどれかが起きた場合、目的が変更されます
目的:相手にOKと言わせるため
役A:僕と付き合ってください!(言動)
役B:ごめんなさいムリです
結果:失敗
失敗しました。これで目的変更が起きます。今後は作戦を変えて再チャレンジするかもしれませんし、諦めて他の異性を好きになるかもしれませんし、意気消沈して引きこもるかもしれません。
3.目的はきっかけが無いと変わらない
目的は、外部からのきっかけがない限り絶対に変わりません
自分の中ですべて解決(成功、失敗、邪魔)なんてことは起きません。
他人やモノからの「きっかけ(働きかけ)」があってはじめて目的変更が起きます。
「きっかけ」はとても重要なので、また次の機会に詳しく説明します。
4.目的は消えることは無い
「目的が途中で消失すること」は絶対にありません
あるのは上でも言ったとおり「目的が達成・失敗・邪魔された結果、目的の変更が起きる」ことだけです。
5.ひとつの役が目的を同時に持つことは無い
1人の役のなかに、目的が2つ以上同時に存在することは絶対にありません
例えばロード・オブ・ザ・リングの最終目的が「指輪を捨てて世界を平和にする」ことだとしても、道中で敵に襲われたときの目的は「敵を追い払うこと」になりますよね。
目的が途中で切り替わることはあっても、複数の目的が並列に存在することはありません。これもお芝居をシンプルに整理するためのルールです。
6.目的には禁止事項がある
目的には禁則事項があります。
1.お芝居で怪我をするような危ないこと
2.ストーリーを無視すること
3.役を台無しにする、潰すこと
4.演出上のルール(演出家の意向)を無視すること
これも「なぜ目的を設定するか」を考えれば自然とわかることです。目的はお芝居を最大限シンプルにわかりやすく、そして観客にとって面白く見てもらうための方法のひとつだからです。
▼「星に願いを」の冒頭シーンを「目的」で見てみる
台本:星に願いをのシーンを一部引用します。
役3:あ、ねぇ空見てみて
ここの目的はなんでしょうか?他人に何をさせたいのでしょう?
- 目的:立ち止まらせたいから?
うーん?しっくり来ません。それなら「みんな、立ち止まって!」でよくないですか?
- 目的:空を見せたいから?
これがひとつの正解です!空を見せたいから、空を見てみてと言ったんです。
「さっき、“目的と行動はイコールではない”って説明したばかりじゃないか!」と混乱する方もいるかもしれません。
いいえ、目的と行動が一致しない場面もあれば、今回のように目的と行動が一致する場面も多々あります。台本の文字情報どおり素直に読んでよい場面もあれば、台本の文字情報とは裏腹の目的がある場合もあるということです。
例えば、女性が男性に向かって「きらい。……あっちいって」と言ったとき、本当に男性のことを嫌ってるんでしょうか?本当は好きなんでしょうか?この違い、分かりますか?
テンポの悪さも目的で解消!
目的を設定することで、お芝居にありがちな「間の悪さ、テンポの悪さ」も解消しやすくなります。
例えば、役3がふと空を見た瞬間に「空がきれい」と思ったのなら、役3は立ち止まるはずですよね。
役2が「さむ〜」と言ってる間には、役3が立ち止まっていないとおかしいんです。
以上をまとめると「さm『あ、ねぇ空見てみて』」くらいガッツリとセリフが被ってこないと「テンポが悪い、間が悪い」とか言われてしまいます。テンポが悪いということは、演技がこま切れのブチブチになるということです。
世界中の物語の99%以上は、この目的(メソッド)に沿って進んでいます。ぜひ目的の設定を継続してみてください!
がんばりましょう!