▼「自分」でなく「相手」本位に考える
A.この悩みはまさしく、「人間関係を軽視している」弊害です。「自分がこうしなきゃ」ではなく、人間関係を重視しましょう。現在のあなたは「相手にはっきりと演技を届けなきゃ」という自分本位の意識が勝っています。
「自分はこうしなきゃ!」という意識から「相手に○○させたい!」という目的へ意識を変えてください。
(目的を説明した過去記事はこちら:【第3回その2】【最重要】目的(メソッド)って何?
- 相手に○○をさせるためなら、自分の演技なんてどうでもいいじゃん
という意識で演じることが第一歩です。それができたら今度は、
- 相手に○○をさせるためなら、自分の演技なんてどうでもいいじゃん。でも自分は商品を売る役なのだから、じゃあその特徴を際立たせて演技しよう
までバランスが取れると、さらに役が際立ちます。TVショッピングの即興劇(エチュード)であれば、「視聴者に商品を買わせたい」とか「TV番組のオーディエンスを驚かせたい」とか目的を設定して、その目的に従って行動するんです。
そこに我を持った自分は存在しません。「自分自身」とは、「相手に何かをさせるための存在」です。
さて、今度は上記の「相手本位に考える」「自分とは、相手に何かをさせるための存在である」を、もう少し深堀りしてみましょう。
飲み屋の場で例えます。
人にお酒をつぐ時に「まぁまぁ、どうぞ」とお酒が杯いっぱいになるまで入れると、相手は「おっとっとっと・・・」と言います。
「おっとっとっと」と言われた瞬間に、お酒を入れるのを止めますか?やめなかったら、どうなるでしょうか?
強引ですが、こぼれそうになるギリギリで、相手はこぼさないようお酒に口をつけるしかありません。
なぜなら、ここであなたがお酒をつぐ目的は「私がお酒を入れたいから(欲求)」ではなく「相手にお酒を飲ませたいから(目的)」です。
お酒をつぐ目的:相手にお酒を飲ませるため
「お酒をつぎたい」という欲求(願望)ではない!
▼お芝居は「隙だらけ」でOK!
お芝居を作るには「作り手の視点(神の視点)」と「役の視点」の両方が必要です。要はバランスです。
そのバランスが取れていなくて、「作り手の視点」が極端に強い人もいます。
最初のエチュードの例だと、
- 観客から見られていることを意識しなきゃ
- TVショッピングなんだから視聴者にちゃんと聞かせなきゃ
という意識が強いということです。
作り手の視点を重視する人は「見えない隙間を作ること」を怖がります。
商品紹介のとき、どんな風にリアクションを取ろうか?驚こうか?など「見えない隙間は埋めよう」とします。
でも大丈夫です。役は、見えない隙間が多くて構いません。知らないことや、未知の領分を自分の目で見るからこそ、他人とすれ違ったり反発したりでき、ドラマが生まれます。
(ドラマが生まれる条件について書いた記事:【第7回その2】ドラマが生まれる3分類とは[共生・追従・反発])
役が気にしていないことを、役者(作り手)が補完する必要はありません。
例えばTVショッピングは、「視聴者に商品を買わせたい」とか「会場の参加者(サクラ)に商品の凄さを認めて貰いたい」といった目的を達成できれば良いわけです。
なら例えば、MCをチャラい感じで攻めてもアリだとは思いませんか?もしくは、大阪のオバちゃん風に攻めたとしたら?特にどんな感じで演じるかは、指定されていないはずです。
商品説明をバーっと早口でまくしたてた結果、途中途中で何を言っているか聞き取れない部分が出たとしても、演技としては目的が達成できればOKです。物語が成立すればOKです。
演じていくうちに「こう演じるのもアリじゃない?」という発想を持ち、やがて「こう演じないと損じゃん?」という意識に変わってくると、レベルが上がった証拠です。
この悩みも成長です。ぜひトライしてみて下さい。
目的は失敗して全然構わない
最後にひとつ、勇気の出ることをお伝えします。
「商品を買わせたい」という目的で、思ったとおりのTVショッピングを演じました。
その結果、誰ひとり商品を買わなかったとしましょう。現実世界ならクビかもしれませんね。
でも、お芝居の中なら、「誰も商品を買わなくても」まったく構わないのです。
なぜなら目的とは、「相手に具体的な何かをさせるために、簡単で、失敗する可能性があること」だからです。
- 成功(達成)するか
- 失敗するか
- 邪魔されるか
という結果のどれかが起きれば、何も問題が無いからです。
そして目的がドラマチックになりやすいのは、成功よりも失敗です。
「こうかなぁ」と迷って演じるより「こうしてやろう!」と演じたほうが、はるかにいい結果や、いいダメ出しが待っています。
がんばりましょう!